きのこ帝国の楽曲「夜鷹」は、孤独や劣等感を内包しながらも、どこか優しさを失わずに夜空へと飛び立っていくような、静かで強い意志を感じさせる一曲です。
そのタイトルを見て、真っ先に思い出すのは宮沢賢治の短編童話『よだかの星』でしょう。
この楽曲には、まるで「よだかの星」の世界と響き合うようなテーマが漂っています。
今回は、「夜鷹」の歌詞の世界を、『よだかの星』と照らし合わせながら深掘りしていきます。
宮沢賢治『よだかの星』とは?
『よだかの星』は、賢治の代表的な短編童話。
他の鳥たちから「みにくい」と忌み嫌われた夜鷹(よだか)が、拒絶され、追われながらも天に昇っていき、最後には星になるという悲しくも美しい物語です。
この物語に流れているのは、自己否定と他者からの疎外、そしてその中で見出す静かな救い。
そしてきのこ帝国「夜鷹」も、まさにそんな感情を抱えた一人の“よだか”のような存在を描いているように思えます。
「夜鷹」に込められた感情と風景
きのこ帝国「夜鷹」の歌詞は、直接的ではないけれど、何かから逃れるように夜へと溶けていく心の動きを詩的に表現しています。
「星巡りの唄が絶えず鳴り響いて 無数の悲しみとともに、すべてを夜へ」
→ これは、賢治の夜鷹がひとりぼっちで星を見上げていた姿を彷彿とさせます。社会の中で居場所をなくし、夜という静けさの中に逃げ込むような心情。
「手紙が届いた朝の日のことを ぼくらはきっと忘れるだろう」
→ 届いた手紙さえも忘れてしまうという視点には、自分の痛みを世界が映し返しているような孤独の深さが表れています。
「殺●すことでしか生きられないぼくらは
生きることを苦しんでいるが、しかし
生きる喜びという不確かだが あたたかいものに
選択のときがおとずれた、今だ」
→ 宮沢賢治の夜鷹もまた、逃げ場をなくし、天に飛び立っていきました。
このフレーズには、自己否定と救済への切望が凝縮されています。
楽曲としての「夜鷹」:音で描かれる昇天のプロセス
「夜鷹」は、夜の空気を纏ったような厚みのあるギターと、揺れるようなリズム構成が印象的。
曲は静かに始まり、少しずつ感情の波を重ねながら、サビでふわりと開けていきます。
まるで、地上で身を潜めていた夜鷹が、意を決して夜空に飛び立つ瞬間を描いているかのような展開です。
そのサウンドの変化は、賢治の「夜鷹」が星になっていくまでの過程と重なるようでもあります。
なぜ「夜鷹」は心を打つのか?
この楽曲が強く心に残るのは、「救われなさ」と「祈り」のような感情が共存しているからです。
他者に理解されない寂しさや疎外感、そこからくる諦めのような感情。けれど、その奥には、まだ“光を見たい”という願いがある。
『よだかの星』も、救いの物語ではありません。
でも、痛みを知るものだけが持つ優しさと、静かな決意が心に残る。
「夜鷹」もまた、そうした静かな決意の歌なのです。
まとめ:夜空にまぎれるように、自分を赦す
きのこ帝国「夜鷹」は、まるで賢治の『よだかの星』が、現代のサウンドとして蘇ったような楽曲です。
社会の中で居場所を見失った人の、ささやかで切実な感情を、静かに、でも確かに響かせてくれる。
夜に聴いてみてください。
その静けさの中で、自分を少しだけ赦せる気がするはずです。