【楽曲考察】きのこ帝国「春と修羅」――叫ぶように、生きていた証を刻む歌

きのこ帝国の名曲「春と修羅」。
この楽曲は、彼らの中でもとりわけ激しく、切実なエネルギーに満ちた一曲として、多くのファンに深く刻まれています。

そのタイトルが象徴するように、この曲はただのロックではなく、“生と葛藤”、そして“希望と絶望”のせめぎあいをそのまま音にしたような存在です。


タイトル「春と修羅」の意味

「春と修羅」という言葉は、宮沢賢治の詩集『春と修羅』(1924年)から引用されたもの。
宮沢賢治が“感情のゆらぎ”や“人間の業”をテーマにしたこの作品に、ボーカル・佐藤千亜妃は強くインスパイアされたと言われています。

春=再生や希望、修羅=苦悩や混乱。
きのこ帝国のこの曲も、まさにその両極の感情を揺さぶるものです。


楽曲が生まれた背景

2010年代前半、きのこ帝国はインディーズロックシーンの中でも一目置かれる存在に。
「春と修羅」は2012年リリースのミニアルバム『ロンググッドバイ』に収録されており、当時の彼らの心情やバンドの勢いがそのまま詰め込まれています。

この曲は、佐藤千亜妃の**“どうしようもない感情をどうにかして吐き出したい”**という衝動から生まれたもの。
インタビューでは、「生きてる感覚が欲しかった」と語っており、爆発的なギターサウンドや絶叫するようなボーカルには、彼女のそんな切実な叫びが込められています。


歌詞に宿る、焦燥と祈り

「あいつをどうやって殺●してやろうか」
「なんかぜんぶめんどくせえ」

この曲の歌詞は、全体を通して**“喪失と再生”**がテーマになっています。
過去の誰か、過去の自分、壊れてしまったもの。それでも前に進まなければならない。

抑えきれない気持ちを抱えたまま、それでも生きるしかない、という痛み。
その叫びが、ギターの轟音と共にリスナーの胸を打ちます。


音の洪水と静寂の対比

「春と修羅」は、轟音ギターと繊細な静けさのコントラストが強く印象に残ります。
イントロから中盤にかけては嵐のようなサウンドが押し寄せ、終盤では一気に静寂が訪れる。

この構成はまるで、感情のクライマックスとその余韻のよう。
音楽でこれほどまでに“心の波”を表現できるバンドは、そう多くはありません。


終わりに:自分の「春と修羅」と向き合う

「春と修羅」は、聴く人それぞれの“過去の痛み”や“生きる苦しさ”を肯定してくれる楽曲です。
感情をむき出しにしてもいい、言葉にならない衝動を叫んでもいい。
そんなメッセージを、きのこ帝国はこの曲を通して私たちに訴えかけてきます。

日々に疲れたとき、自分の弱さを抱きしめたいとき。
「春と修羅」は、そっとあなたの隣に寄り添ってくれるはずです。